メディア芸術祭上海展2007で『モルフォタワー:2つの立てる渦』を出展していただいている児玉幸子さんに本展覧会の感想や作品についての解説をお願いしました。
『モルフォタワー:2つの立てる渦』は、メディア芸術祭第5回大賞受賞作品『突き出す、流れる』のシリーズ作品ですが、今回の展示が世界で初めてになります。本展が終わると9月にはロサンゼルスでの展示が予定されているそうです。
■上海展の感想は?
5年前に、日中国交正常化30周年記念として北京で開催した「日本メディア芸術優秀作品展(メディア芸術祭北京展)」に『突き出す、流れる』という作品を出して、北京の王府井にある中央美術学院美術館に行きました。あれから5年、再び35周年記念の上海展に出展できるので、ものすごく嬉しいです。中国の商業的な中心地である上海には興味があったし、建設ラッシュだと聞く街の様子も見たかったです。
空港から黄浦江を渡る橋の上で見た上海市街地は、竹の子みたいに生える高層ビル郡とクレーンのジャングルで。しかも欧米の町のように整然と並んでいるのではなくって、日本では考えられないような密度でビルが生い茂っている。。上海市内の交差点も凄いです。乗用車やバイクや自転車やタクシーや歩行者が、雑然と、我先にと、ほとんどランダムに交錯するように通行しています。前後左右10cm誤ると何にぶつかるかわからない状況。交通量の多い道を渡るには、360度の視野とセンサーで挑まないと。信号は役に立ちません。
会場の上海彫刻センターからホテルまで歩いてみました。30分ぐらいです。街の風景は、1本路地を曲がるとがらっと変わっちゃう。田舎風の昔懐かしい雰囲気の露天が並んでいたり、超近代的なガラス張りのビルがあって。それに、人とバイクと自転車が大勢入り混じっている雰囲気に浸りながら歩きました。
展覧会では、ボランティアの中国の若い人たちと日が経つにつれて少しずつお話できるようになりました。インターネット上で、展覧会のページに顔写真やメッセージを載せているのはよかったみたいです。作品を見て「これは何でできている液体なの?」とか、「よくこんな作品を考えつくね」とか何度も言われました。言葉に詰まると、筆談です。漢字で書けば日常的なことなら大概通じるんですね。
■作品について
2000年から、磁性流体という液体素材を使ったメディアアートを作っています。今回の展示は「モルフォタワー」シリーズの第三番目の作品。「モルフォタワー:立てる二つの渦」というタイトルのインスタレーションです。
猫足テーブルの上の1メートル四方の浅い皿にたっぷりと磁性流体が入っています。中ほどに、高さ15センチぐらいの円錐形の塔が立っていて、音楽が響くと、塔の表面に磁性流体のトゲトゲが優雅に(?)ダンスします。音楽に合わせて。
音楽にのった流体の舞踊は、冷たく白い照明の光によって照らされています。この白い光がミソです。黒く艶々した金属光沢を放つ磁性流体の表面が、宝石のように輝くのです! 液体の表面はあたりの様子を映し出すので、複数の波紋が重なり合いながら光を放って、音楽に同調して移りゆく様子は、未知の惑星、未知の生物のよう。。
この作品は皿の上に箱庭を作るように、皿の上に、ひとつの気象(雲、渦、海洋)のようなものを載せて眺める気持ちで作りました。白い光は、ときどき稲光になって、タワーに降り注ぐ。そして、モルフォタワー同士は、細かな粒粒を表面にあわ立たせて、お互い交信しているように動きます。
私の磁性流体アートには、観客が直接働きかけることができるインタラクティブな作品と、眺めるだけのインスタレーションと2種類ありますが、今回のは後者のですね。奏でられる音楽が完成させる、ひとつの世界、白と黒のモノトーンの、皿の上の気象・・。みたいなものを目指しています。テーブルの足と側面を鏡面にして、暗い空間に皿がぼわっと空中に浮かんでいるようにしました。
■展示について
今回の作品には、ソニーコンピュータサイエンス研究所の研究者である宮島靖さんの技術協力がありました。音楽に付けたメタデータ情報によって、流体と光の制御をきわめて正確に行うことができます。実際には液体なので「正確な」制御という訳にはいかないですが・・。それにもソフトウエア的な工夫が必要。このような、宮島さんの高度な技術が、作品に使われたことは嬉しいことでした。
また、大学で教えている二人の学生(出田君、加須谷さん)も、照明装置と作品の造作や組み立てを手伝ってくれました。電気通信大学の技術部の協力も大きかった。作品が複雑になって、色々な種類の技術的要素が入ってくると、たくさんの人とのコラボレーションが必要になります。CG-ARTS協会の方、展覧会のスタッフ。中国の対外交流協会の方々。ほんとうに多くの人にお世話になっています。ありがとうございます。
■上海展の会場の構成
上海展の会場の構成は、BUNDの風景と重なるものがあるかな? 中国の街角の電飾は華々しいですが、私達の展覧会場もかなり・・・(笑)。
美術展やギャラリーだと、白いキューブ的な空間で雑踏とはかなり異なる緊迫がありますが、メディア芸術祭上海展は、そんな風では全くないです。上海の街角から違和感なくつながってしまった、そんな雰囲気。食い入るように集中して個々の作品を見つめている若い観客の様子に心打たれました。皆さん本当に楽しそうでした。